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朝ドラ — 2026.01.05 公開 / 2026.05.17 更新 — 執筆:
How to Watch 'Kaze, Kaoru'

朝ドラ「風、薫る」を観る — 看護学と実在モデル

2026年3月30日から始まる NHK 連続テレビ小説「風、薫る」(脚本:吉澤智子、原案:田中ひかる)は、明治期に日本の看護を確立した二人の女性をモデルにした、朝ドラ史上初の血縁なし女性ダブルヒロインの作品である。本稿は、視聴を始める前後に手元に置きたい、史実と作品の背景情報を一本にまとめて整理する。

#朝ドラ#連続テレビ小説#風薫る#看護史
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NHK 連続テレビ小説「風、薫る」は、2026年3月30日(月)から放送開始する第114作目の朝ドラである。半年×26週・全130話の構成で、9月最終週に最終回を迎える。本作は朝ドラ60年の歴史で、これまでなかった「血縁関係のないダブルヒロイン」を初めて成立させた作品として注目されている——「だんだん」(2008年度後期、双子姉妹がヒロイン)以来17年ぶりのダブルヒロイン作品でもある。(出典:風、薫る - Wikipedia)

本稿は、視聴を始める前後に押さえておきたい背景情報を、作品制作・歴史的背景・史実との距離の三つの観点で整理する。

— 01キャスト・相関図・主題歌・あらすじ・放送はいつから

制作スタッフ

脚本:吉澤智子 2009年「赤鼻のセンセイ」(日本テレビ)で連続ドラマ脚本デビュー。2018年 NHK 大河ドラマ「西郷どん」では一部回の脚本を担当。2022年 NHK 朝ドラ「ちむどんどん」では沖縄を舞台にしたドラマで脚本を執筆した経験を持つ。

原案:田中ひかる「明治のナイチンゲール 大関和物語」 ジャーナリストの田中ひかるが、近代看護の黎明期に日本初期の正規教育を受けた看護師の一人、大関和(おおぜき・ちか、1858–1932)の生涯を取材したノンフィクション作品。中央公論新社から2023年刊行。同作はドラマの原案として公式にクレジットされているが、登場人物名や物語の細部はドラマ独自に再構成されている。

主題歌:Mrs. GREEN APPLE「風と町」 日本のロックバンド Mrs. GREEN APPLE が朝ドラ主題歌を担当するのは初。

キャストと役柄

主人公(W主演)

主な共演者(相関図)

(出典:風、薫る - Wikipedia)

放送時間と初回視聴率

放送枠は月曜〜金曜の朝 8:00〜8:15(NHK 総合ほか)。2026年3月30日の初回放送の視聴率は 14.9%(関東地区・世帯)、個人視聴率は 8.3% だった。(出典:風、薫る - Wikipedia)

物語の舞台

明治19年(1886年)から始まる。看護がまだ職業として確立されておらず、社会的に「賤業」と見なされていた時代。二人のヒロインが看護婦養成所で出会い、ナイチンゲールに学んだスコットランド出身の看護教師マーガレット・バーンズ(演:エマ・ハワード)のもとで近代看護を学び、それを日本に根付かせる仕事を始めるまでを描く。なお史実で桜井女学校の指導にあたったのは米国人看護教育者アグネス・ヴェッチであり、ドラマのバーンズはこれを翻案したフィクションの人物である(後述)。(出典:風、薫る - Wikipedia)

— 02実在モデルは誰か — 大関和・鈴木雅と明治期看護学

桜井女学校とアグネス・ヴェッチ

桜井女学校付属看護婦養成所は1886年、東京・芝の桜井女学校(プロテスタント・キリスト教系の女子校)に設置された日本最初期の体系的看護教育機関である。指導者として招かれたのが、米国出身の看護教育者アグネス・ヴェッチ。彼女は1887年9月に来日、同年10月から東京帝国大学医学部第一医院(後の東大医学部附属病院)の看護指導者として着任、桜井女学校の養成所生にも看護を教えることになった。(出典:アグネス・ヴェッチ - Wikipedia)

ヴェッチが東京帝国大学医学部第一医院での実地訓練を組み立てた形式は、日本における近代看護教育の出発点となった。第一期生として鈴木雅と大関和ら、日本で正規教育を受けた最初の世代の看護師がここから出る。

大関和と鈴木雅

鈴木雅(1858–1940)と大関和(1858–1932)は、共に1858年生まれ、桜井女学校の養成所で共に学んだ親友であり、近代日本看護の二つの中心軸を担った。

鈴木雅は組織化と教育を担当:1891年東京看護婦会創立、1896年東京看護婦講習所創立。日本における看護師の職能組織化の起点を作った。

大関和は現場の実践を担当:関口病院での看護婦長を経て、新潟県上越市の知命堂病院初代看護婦長として、地方医療における近代看護の導入を担った。「明治のナイチンゲール」の異名は、彼女の現場での働きに由来する。1896年からは鈴木が設立した東京看護婦会の教師としても加わり、二人の組織は実質的に連動した。(出典:大関和 - Wikipedia)

看護が「賤業」とされていた時代

明治初期の日本において、女性が外で職業に就くこと自体が「ふさわしくない」とされ、その中でも看護は患者の身体に直接触れる仕事として、特に低く見なされていた。家族の中で病人の世話をするのは女性の家事の延長と見なされる一方、職業として看護を行うことは「家を出て賤業に就く」と社会的に判定された。

この社会的偏見と戦いながら、職業としての看護を確立した第一世代の女性たちの仕事は、現代の医療制度の前提を作った。

— 03「風、薫る」と朝ドラW主演・職業ヒロイン作品の系譜

朝ドラ60年の歴史の中で「W主演」と呼ばれた作品はこれまでにも存在する。最も近い前例は2008年度後期「だんだん」(三倉茉奈・三倉佳奈の双子姉妹がヒロイン)で、本作も「W主演」と呼ばれたが、血縁関係のある実姉妹を起用した設計だった。さらに遡れば1983年度後期「おしん」など、長期間のヒロインを複数の俳優が年齢別に分担する「リレー型」のヒロインも存在する。「風、薫る」がそれら過去のW主演と区別される指標は「血縁なし・同世代・同期間」を全て満たす初の朝ドラだという点にある。

職業ヒロイン作品との比較も興味深い。2011年度後期「カーネーション」(小篠綾子モデルの洋裁デザイナー)、2016年度後期「べっぴんさん」(子供服ブランドのファミリア創業者モデル)、2014年度前期「花子とアン」(村岡花子モデルの翻訳家)——朝ドラはほぼ毎作、実在の女性職業人をモデルにした作品を提供してきた。ただし「医療職」を主役職業として正面から扱った朝ドラは、1996年度前期「ひまわり」(看護学校から裁判所事務官への転身)以降30年間で本格的な作品が乏しく、「風、薫る」は2026年度の朝ドラ枠で看護師を主役職業に据えた稀少な作品である。

観客側から見える「初」の意味

「血縁なし女性W主演」と「医療史」という二つの新しさが同じ作品に同時に持ち込まれた構造は、朝ドラの定型のうち「女性一人の人生を半年で追う」「家族・職業のいずれかを軸にする」という二つの基本フォーマットを同時に書き換える試みでもある。見上愛上坂樹里の組み合わせは、過去のW主演作品の「双子の物語的わかりやすさ」「リレー型の年齢継承の自然さ」のどちらも持たない——観客は半年間「血のつながらない他者同士の友情と職業的協働」をW主演構造でどう成立させるかを、朝ドラのフォーマット史の更新として観ることになる。

— 04史実とドラマの距離 — モデルとの違い

朝ドラはほぼ毎回、実在の人物または出来事をモデルとしながら、伝記の正確な再現ではなくフィクションとして再構築する形式を取ってきた。「風、薫る」もまた、史実の大関和・鈴木雅の生涯をそのまま映像化するドラマではない。

主な変更点と推測される演出意図

人物名の変更:史実の鈴木雅と大関和は、ドラマでは「一ノ瀬りん」と「大家直美」という別名で再構成されている。これにより、伝記事実の細部に縛られない自由な物語の展開が可能になっている。

看護教師の人物の翻案:ドラマでヒロインたちを指導するスコットランド出身の看護教師マーガレット・バーンズ(演:エマ・ハワード)は、史実で桜井女学校の養成所を指導した米国人看護教育者アグネス・ヴェッチを下敷きにした、ドラマ独自のフィクションの人物である。出身国(米国→スコットランド)や名前を変えることで、ナイチンゲール直系の看護教育という背景を保ちつつ、史実の細部に縛られない人物造形を可能にしている。

生い立ちの再構成:上坂樹里が演じる大家直美は「生まれてすぐ親に捨てられ、教会で保護されて育った女性」という設定だが、史実の大関和は栃木の士族の家庭に生まれ、結婚と離別を経て看護師を志した経歴を持つ。ドラマは「孤児として始まった人」という物語上の引きを優先した。

バディ関係の前面化:史実の鈴木雅と大関和は確かに同期の親友だったが、二人の関係を「W主演」として作品全体の中心軸に据えるのは、ドラマの構成上の選択である。実際には二人それぞれの個別のキャリア(鈴木が組織化、大関が現場)は別々に進んだ部分が多い。

私の観方 — 半年間をどう楽しむか

朝ドラを長年観てきた私の経験からいうと、このドラマを観る最も豊かな楽しみ方は、ドラマの物語と史実の対応関係を、視聴の途中で適宜確認していくことだ。本ガイドの参考リンク(特に田中ひかる原案書籍)と合わせて、各週の放送内容を史実と並べて読むと、フィクションとしての朝ドラの設計と、明治期日本の医療史の双方を、同時に楽しむことができる。

朝ドラ史上初の「血縁なし女性ダブルヒロイン」(朝ドラW主演の系譜については別稿参照:朝ドラW主演の系譜)、医療史を主題にした作品、そしてMrs. GREEN APPLEの主題歌——「風、薫る」は2026年度の朝の食卓に、これまでの朝ドラとは少し違う風を吹き込もうとしている。

私自身、初回放送をリアルタイムで観た時に感じたのは、明治の看護現場の汚さや臭いまでをきちんと作り込もうとする美術設計の真面目さだった。第1週の桜井女学校の養成所教室シーンで、机の上に置かれた英語の解剖学教本や、ヴェッチ役の演者の英語発音の自然さなど、細部まで史料に当たって作られた痕跡が見える。半年間の視聴の伴侶として、本ガイドが役に立てば幸いだ。

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初出公開: 2026.01.05 / 最終更新: 2026.05.17 記事の作りかたについて →